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あなたの肝臓をもっと健康に!

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メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)

◆病態と診断


A.どのような異常・病気なのか?(病態)

糖尿病・高脂血症・高血圧・肥満などが1人の患者さんに同時に起こりやすいことが知られています。
肥満あるいはインスリン抵抗性(血糖をさげる働きを主としたホルモンであるインスリンが体からでているのに効果がでにくい)をベースにしたこれらの生活習慣病の合併は,古くはSyndrome X,死の四重奏,インスリン抵抗性症候群,内臓脂肪症候群あるいはマルチプルリスク症候群とよばれてきましたが,最近ではメタボリックシンドローム(MetS)とよばれています。
つまり,従来,エネルギーを蓄える貯蔵組織と考えられていた脂肪組織では,いろいろなホルモンやサイトカイン(TNFαやレプチンやアディポネクチンなどの)を産生・分泌し,糖・脂質代謝や血圧の調節に重要な役割をはたしている.そして,脂肪組織のうち,皮下脂肪よりも内臓脂肪が重要な役割をはたしています。
 このような内臓肥満をベースにした糖・脂質代謝異常や高血圧の合併は,動脈硬化をより促進し,脳卒中や心筋梗塞などの心血管系疾患を惹起する危険性を健常者の2-3倍に高めるといわれています。


B.診断
 このような背景から,わが国におけるメタボリックシンドロームの診断基準が,2005年に発表されました(日内誌94:188-203,2005)。

内臓肥満(臍の高さで測定したウェスト周囲径)

男性≧85cm
女性≧90cm

注意:ウエストはズボンやスカートのウエストではなく,臍の高さで軽く息を吐いた状態で測定します。

であり,(可能ならばCTで測定した内臓脂肪面積≧100cm2を確認する)があり,

①高脂血症〔中性脂肪(高トリグリセリド・TG)血症:TG≧150mg/dLあるいは低HDL-コレステロール血症:HDL-コレステロール<40mg/dL〕,
②血圧高値(収縮期血圧≧130mmHgあるいは拡張期血圧≧85mmHg),
③空腹時高血糖(空腹時血糖値≧110mg/dL)

の3つのうち2つ以上を合併する者をメタボリックシンドロームと診断するとさだめれました。


◆治療方針


A.まず生活習慣の修正を

 メタボリックシンドロームと診断された方の治療にあたっては,生活習慣の改善が必要です。食事や運動療法による減量により,血糖や中性脂肪濃度が低下し,血圧も低下します。もちろん,減塩(食塩摂取量は6g/日以下)の食事も重要です。アルコールの多飲(過剰摂取)者では,禁酒・節酒に心がけます。喫煙者では禁煙につとめます。


B.薬物治療

 内臓脂肪を減少させる薬物があれば,糖・脂質代謝異常や高血圧のすべてが改善すると期待されますが,現時点ではそのような薬剤はありません。したがって,メタボリック症候群の患者さんにおいては,主体である異常を治療にこころがけます。それぞれの薬剤の主たる薬効に加えて,糖・脂質代謝や血圧調節への好ましい薬効を上手に利用します。

1.脂質代謝異常が主体の場合 

PPARαのリガンドであるフィブラート系という薬剤は,主に血中TG濃度を低下させます。インスリン抵抗性の改善作用も合わせもち,降圧にも働きますただ,メタボリック症候群でも,高コレステロール血症を合わせもつ患者では,スタチン系という薬剤が必要となります。

2.高血圧が主体の場合 

インスリン抵抗性を改善するACE阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)・長時間作用型Ca拮抗薬・α1遮断薬・血管拡張性β遮断薬という種類の薬剤を選択します。インスリン抵抗性を改善するACE阻害薬・長時間作用性Ca拮抗薬・ARBは,利尿薬・β遮断薬やプラセボに比べて,糖尿病の新規発症率を14-34%減少させたと報告されています。したがってメタボリック症候群を有する高血圧患者さんの治療においては,インスリン抵抗性を改善し糖尿病の新規発症を抑制する降圧治療が重要になります。

3.空腹時高血糖が主体の場合

 糖尿病であれば,ビグアナイドやチアゾリジンなどといったインスリン抵抗性改善薬により血糖をコントロールします。これらの薬剤では中性脂肪濃度や血圧の低下も期待できます。吸収阻害薬も食後血糖を低下させ,インスリン抵抗性を改善します。さらにこれら薬剤は,耐糖能が境界型の患者さん(糖尿病予備軍)の糖尿病新規発症を20-30%低下させるので,メタボリック症候群の患者さんには有用といえます。